研究成果(平成21年度)

研究成果の詳細は「平成21年度 最終成果報告書」 ( pdfファイル )をご覧下さい。

環境物質動態研究部門

本部門では土砂・底質粒子・生態およびよう関係物質をキードに研究をおこなっ た。具体的な内容は以下のようである。有明海における懸濁物質輸送の数値モデ ル開発のためには、底面の境界条件としての再懸濁の推定が必要である.しかも 広域的な推定が必要である。そこで底質環境および影響を与える流入負荷につい て検討をおこなった。モデルに対して生態系を考慮する必要があるので、マクロ ベントス群集について調査をおこない定量的な解析を加えた。
また、生態系の影響に関して付着藻類やベントスが分泌するEPSが底質安定化 に与える生化学的要因を検討した。

具体的な個別の内容を示す。

1:有明海における底質の細粒化および底質分布に関する研究
西部域において粘土質Mdφ>7以上が大半をしめていることが判明した。再懸濁 速度Eを係数MEと底面せん断応力τの関数として、また沈降速度WをSS濃度の関数 として表示することができた。これらのデータはモデル部門の基礎データとなっ ているので、

2)生物化学的要因の検討
本研究では、海苔および珪藻からなどから抽出したEPSが底質に与える影響を研究 し底質の安定化に寄与しているかを明らかする。詳細な実験を行うことで有明海 異変のひとつである透明度増加の原因解明へつなげていく。


有明海における懸濁物質輸送の数値モデル開発のためには、底面の境界条件とし ての再懸濁の推定が必要である.しかも広域的な推定が必要である。そこで底質 環境および影響を与える流入負荷について検討をおこなった。モデルに対して生 態系を考慮する必要があるので、マクロベントス群集について調査をおこない定 量的な解析を加えた。
また、生態系の影響に関して付着藻類やベントスが分泌するEPSが底質安定化 に与える生化学的要因を検討した。

個別内容
底質環境および影響を与える流入負荷
 再懸濁速度のモデリングおよび再懸濁係数の広域的推定を目的とし、以下の2 つの研究について実施した。

陸域から供給される物質の負荷量に関する研究
筑後川は一級の河川であり、有明海に与える負荷量は大きい。調査の結果、シリ カと硝酸態チッソはほぼ保存的に振る舞っており,河川起源の栄養塩が希釈され ながら海域に流入してい ると考えられた.一方,アンモニア態チッソは海域の方が河川より高濃度で,河 川水によって希釈されながら感潮域に流入していた.リン酸態リンは非保存的に 振る舞っており,感潮域内での生産があると考えられた.これは,感潮域内で懸 濁態リンからの溶出があるためと考えられた.懸濁態リンは海域から感潮域に輸 送されており,塩分変化にともなってその一部が溶出して,溶存態のリン酸態リ ンとして海域に流出しているものと考えられた

有明海における底質の細粒化および底質分布に関する研究
西部域において粘土質Mdφ>7以上が大半をしめていることが判明した。再懸濁 速度Eを係数MEと底面せん断応力τの関数として、また沈降速度WをSS濃度の関数 として表示することができた。

生物化学的要因の検討
本研究では、海苔および珪藻からなどから抽出したEPSが底質に与える影響を研究 し底質の安定化に寄与しているかを明らかする。詳細な実験を行うことで有明海 異変のひとつである透明度増加の原因解明へつなげていく。

有明海へ影響を及ぼす河川としては一級河川である筑後川があげられる.この河 川は土砂輸送を含め,有明海への流入負荷が大きい。有明海への土砂輸送に付着 藻類の細胞外EPS が影響しているとすれば,その影響を調べることは重要である と考えられる.そこで本論文では,筑後川底泥の状況を有明海底泥との比較にお いて検討した.
得られた成果を下記に示す。
・EPS中から2価の金属およびウロン酸が検出され、これらの相互作用によりEPSに 凝集能力が付与されていると考えられる。
・筑後川底質からも糖が検出され、光合成の影響を受けていることが示唆された が、クロロフィルとの相関は分かっておらず今後更なる研究が必要と思われる。
・底質にEPSを加えると剪断応力が発生し、これにより底質粒子の流動により大き な力が必要になることが考えられる。これはEPSと土との相互作用で凝集が起こり、 粒径が増したためだと考えられる。
・底質にEPSを加えて撹拌すると、粒子径が増大することが分かった。更に、それ に伴い全糖量も増加し、糖と底質間での相互作用が起こっていると考えられる。
・底質EPSが懸濁物質の凝集・沈降に関与し、有明海の透明度上昇およびCODの増 加につながっている可能性は証明できた。しかし、底質EPS以外の要因も大きく係 っていると考えられるため、今後もEPSについて検討していく必要があると考える。

マクロベントス群集
干潟域・浅海域ともに情報が少なかった有明海湾奥部でのベントス群集について 精力的な調査を行い、ベントス群集構造の長期的変化やそれに対する貧酸素水塊 の影響、外来種・希少種を含む干潟域のベントス相の詳細な記載は大きな成果で ある。これらの成果はすでに学術論文としても出版されているか、査読中の状態 である。また、安定同位体を利用し、泥質干潟に関して水質浄化機能とは異なる 視点からの生態系機能評価を行い、隣接浅海域とのリンクを示したことも重要な 成果であり、この課題に関しては科学研究費補助金を獲得するなどその意義は外 部からも認められている.

干潟域のマクロベントス相
湾奥部干潟域でも特に佐賀県沿岸の軟泥干潟は調査の困難さからマクロベントス に関する干潟広域でのデータに乏しかった。本研究により、絶滅が危惧される希 少種や種苗などに混じって移入してきたと考えられる外来ベントスについても着 目して湾奥部干潟域を塩田川、六角川、筑後川河口域の3単位に分けてマクロベ ントス群集の記載を行った。塩田川は軟泥であり、砂泥の筑後川河口とではベン トス群集構造は異なり、泥底に多いサルボウや砂質域に多いアサリなどのベント スの分布状況から底質環境がベントス相の違いを決定している主要因であった。 しかしながら同じ泥底の塩田川と六角川河口干潟間でも群集構造は異なり、底質 以外にも水深などの物理環境の重要性も示唆された。ベントス相についてはすで に学術論文として出版されている
軟泥干潟の生態系機能
軟泥干潟では底性微細藻類の生産が大きく、干潟を住み家とするムツゴロウやヤ マトオサガニなどを支えている。こうした微細藻類は干潟の生物だけでなく、隣 接する浅海域の生物生産にも寄与している可能性がある。このことについて安定 同位体を利用して解析を行ったところ、特にムツゴロウやヤマトオサガニが活動 しなくなる冬期では、干潟上に高密度な底性微細藻類のマットが形成されること からもわかるように浸水時に巻き上がり、隣接する浅海域へも流出してそこに棲 息するマクロベントスのエネルギー源としても利用されている傾向がみてとれた。 つまり軟泥干潟には隣接海域へのエネルギー供給という生態系機能があると考え ることができ、干潟環境の保全は隣接浅海域の環境保全にも無関係ではないこと を示した
浅海域のマクロベントス相
湾奥部浅海域はいわゆる有明海異変の中心ともなる海域であるが、ベントスのデー タは不足していた。1989年に得られている貴重なデータとの比較をしながら現在 のベントス相について記載を行った。湾奥部海域は水産資源の観点で二枚貝の好 漁場であるのと同様、マクロベントスにおいても二枚貝を中心とするベントス群 集であり、この特徴は1989年当時と大きな変化はみられなかった。しかしながら 1989年当時と比べ種数や個体数は大幅に低下していた。棲息していた優占種の大 半も砂泥域、泥底域に関わりなく分布域や棲息密度を減少させていた。バイオマ スについては湾奥部西部の泥底海域での減少が顕著でほぼ1989年当時の50%にな っていることが推定された浅海域のマクロベントス群集に与える貧酸素水塊の影 響
湾奥部西側海域でのベントスバイオマスの低下は貧酸素の影響を疑わせたため、 貧酸素前のベントス群集と貧酸素後のベントス群集の比較により貧酸素水塊がマ クロベントス群集に与える影響を評価した。泥底域では貧酸素後にベントス群集 構造のばらつきが増大し、貧酸素のストレスに対する応答を示唆した。また種構 成においても貧酸素後は貧酸素耐性が強いと考えられるイトゴカイ類やフクロハ ネエラスピオ(ヨツバネスピオタイプB)などの多毛類やシズクガイなどの日和見 主義的生物が優占する群集構造を呈した。これらは貧酸素ストレス状況下でみら れるベントス群集の普遍的な特徴である。この結果から、夏期に毎年発生する貧 酸素水塊が湾奥部ベントス群集の長期的な貧弱化に影響していることが推察され る。

  干潟域のマクロベントス相
湾奥部干潟域でも特に佐賀県沿岸の軟泥干潟は調査の困難さからマクロベントス に関する干潟広域でのデータに乏しかった。本研究により、絶滅が危惧される希 少種や種苗などに混じって移入してきたと考えられる外来ベントスについても着 目して湾奥部干潟域を塩田川、六角川、筑後川河口域の3単位に分けてマクロベ ントス群集の記載を行った。塩田川は軟泥であり、砂泥の筑後川河口とではベン トス群集構造は異なり、泥底に多いサルボウや砂質域に多いアサリなどのベント スの分布状況から底質環境がベントス相の違いを決定している主要因であった。 しかしながら同じ泥底の塩田川と六角川河口干潟間でも群集構造は異なり、底質 以外にも水深などの物理環境の重要性も示唆された。ベントス相についてはすで に学術論文として出版されている。最終年度には十分ではないが、環境傾度(主 として底質項目)との解析も行っており

軟泥干潟の生態系機能
軟泥干潟では底性微細藻類の生産が大きく、干潟を住み家とするムツゴロウやヤ マトオサガニなどを支えている。こうした微細藻類は干潟の生物だけでなく、隣 接する浅海域の生物生産にも寄与している可能性がある。このことについて安定 同位体を利用して解析を行ったところ、特にムツゴロウやヤマトオサガニが活動 しなくなる冬期では、干潟上に高密度な底性微細藻類のマットが形成されること からもわかるように浸水時に巻き上がり、隣接する浅海域へも流出してそこに棲 息するマクロベントスのエネルギー源としても利用されている傾向がみてとれた。

浅海域のマクロベントス相
湾奥部浅海域はいわゆる有明海異変の中心ともなる海域であるが、ベントスのデー タは不足していた。1989年に得られている貴重なデータとの比較をしながら現在 のベントス相について記載を行った。湾奥部海域は水産資源の観点で二枚貝の好 漁場であるのと同様、マクロベントスにおいても二枚貝を中心とするベントス群 集であり、この特徴は1989年当時と大きな変化はみられなかった。しかしながら 1989年当時と比べ種数や個体数は大幅に低下していた。棲息していた優占種の大 半も砂泥域、泥底域に関わりなく分布域や棲息密度を減少させていた。バイオマ スについては湾奥部西部の泥底海域での減少が顕著でほぼ1989年当時の50%にな っていることが推定された。

浅海域のマクロベントス群集に与える貧酸素水塊の影響
湾奥部西側海域でのベントスバイオマスの低下は貧酸素の影響を疑わせたため、 貧酸素前のベントス群集と貧酸素後のベントス群集の比較により貧酸素水塊がマ クロベントス群集に与える影響を評価した。泥底域では貧酸素後にベントス群集 構造のばらつきが増大し、貧酸素のストレスに対する応答を示唆した。また種構 成においても貧酸素後は貧酸素耐性が強いと考えられるイトゴカイ類やフクロハ ネエラスピオ(ヨツバネスピオタイプB)などの多毛類やシズクガイなどの日和見 主義的生物が優占する群集構造を呈した。これらは貧酸素ストレス状況下でみら れるベントス群集の普遍的な特徴である。この結果から、夏期に毎年発生する貧 酸素水塊が湾奥部ベントス群集の長期的な貧弱化に影響していることが推察され る。



干潟底質環境研究部門

有明海奥部沿岸域(佐賀県東与賀)に調査区を設定し,底泥の硝化速度とその影響因子(温度,pH,塩分濃度)について実験を行った.その結果,硝化速度は,底泥上層部(0〜3cm)で91.4nmol N/g-dry-1と最も高いが,下層部(6〜9cm)においても64.8nmol N/g-dry-1と比較的高い値を示した.これは,埋在性ベントスの巣穴形成や生物活動によって底泥下層部まで酸素が供給されるためと考えられた.また,硝化速度の最適な温度,pH,塩分濃度が明らかにされ,NH4-N濃度と硝化速度との関係はMichaelis-Menten型酵素反応式を用いて定式化された.
夏季に有明海奥部の複数地点で異なる底質コア(砂泥〜泥質)を採取し,溶出実験を行った.その結果,底質の含泥率とNH4-N溶出速度との間に高い相関性が見られ,NH4-N溶出速度は含泥率の増加に伴って指数関数的に増加した.一方,NO3-N溶出速度は,NH4-Nのそれと比較して1〜2オーダー小さく,含泥率との相関性も低かった.次に,含泥率とNH4-N溶出速度との相関性が高いことから,両者の回帰式を用いて,夏季の有明海奥部における海底からの全NH4-N溶出量の推定を行った.その結果,夏季における海底からのNH4-Nの全溶出量は,陸域からの無機態窒素負荷量と同程度であることが分かった.
 佐賀県沿岸の覆砂施工区内外において,3,6,9月に試料採取を行い,前年度までのデータと比較し,覆砂効果の有無,持続性を検証した.有明海湾奥部東岸域では堆積土に占める粘土・シルト分の割合が少なく,覆砂区ならびに未施工区において二枚貝類を中心とした底生生物の生息量が多かった.粘土・シルト分の堆積しやすい同西岸域においては,塩田川河口に近い北部では堆積速度が小さいため,施工区では表層数cmより下側に明確な覆砂材の層が確認でき,未施工区に比べ酸化還元電位が高かった.一方,奥部西岸南部域では,覆砂材の上部に10数cmの堆積層があり,覆砂区,未施工区ともに底生生物の量が極めて少なかった.また,HSI(Habitat Suitability Index,生息場適合度指数)の適用を試みたところ,二枚貝類の生息量は表層の含泥率の影響を大きく受けることが分かった.



環境モデル研究部門

・有明海流入1級河川ならびに諫早湾調整池からの流出・負荷モデルにより陸域負荷の割合を見積もった.また,クリーク地帯の現地調査により水・物質収支について検討し,原単位法の問題点を明らかにした.

・非成層期の諫早湾内では,懸濁物質は主に諫早湾奥向きに輸送されていることを係留観測によって明らかにした.

・有明海の海上風の空間分布の季節変動を明らかにし,海上風を分布として与えた場合と一様とした場合で数値モデル上に現れる流動場の違いを評価した.

・FVCOMをベースとした有明海懸濁物輸送モデルを用いて,有明海全域の流動・懸濁物輸送の1年間の変動について再現計算を実施すると共に,諫早湾潮受け堤有無の影響を調べた.

・予測精度にまだ問題はあるものの,諫早湾潮受け堤を開門した場合の有明海低次生態系の変動を予測するための高解像度数値モデルを構築した.

・Chattonella属プランクトンの日周鉛直移動,日周リズムについて,野外調査・室内実験によって検討した.

・5年間のプロジェクト研究の成果をとりまとめて総括した.また,複数の公開ワークショップ,シンポジウムで,これまでの成果を分かりやすく公表した.